2016/05/09

"Everybody Wants Some!!" 『エブリバディ・ウォンツ・サム!! 世界はボクらの手の中に』

監督:リチャード・リンクレイター
出演:ブレイク・ジェンナー、ゾーイ・ドゥッチ、タイラー・ホークリン
撮影:シェーン・F・ケリー
117分

またしても愛おしい映画を撮りました、リンクレイター!

大学野球の奨学金を受けピッチャーとして入学したジェイク。
彼はアスリート寮で他のチームメンバーたちと一つ屋根の下で生活することに。
そこに集まったのは個性的な面々。新学期開始まであと3日。
彼を待ち受ける大学生活と新しい出会いは果たしてどんなものなのか?


リチャード・リンクレイター。この人、どうやったらこんなにコンスタントに素晴らしい作品を撮り続けられるのか、不思議でしょうがないです。
しかも彼の作品の核となるテーマや哲学、そしてその描き方にまったくブレがない

というわけで今作も素晴らしい出来です!

この人の作品でいつも驚かされるのが、キャラクターと我々観客の間にまったくといっていいほど壁が存在していないこと。
誰一人として気取っていないし、映画内の人物として振舞っている人物が1人もいない。

みんながみんなバスに乗ればいそうだし、食料品屋さんで買い物をしてそう。

というわけで今作でもそう。
主人公のジェイクはもちろん。頭のおかしいジェイから、クールキャラのローパー、妙に大人びたウィロービー、女性をゲットするためにはなんでもするフィネガン、おバカなプラマー、いろいろ教えてくれる面倒見のいい唯一の黒人デール…挙げていくとキリがないほど膨大なキャラクターの数。それにもかかわらずみな個性的かつ真実味がある。

そしてそんな彼らのやり取りを見ていくうちに、いつの間にか彼ら全員のことを好きになっている自分がいる。
いやむしろ彼らを好きにならずにいられる人がこの世にいるだろうか…?

そしてそれを思い知らされるのがラストショット。
画面が暗転した瞬間、いいようのない感情に包まれる。それは端的にいうと「寂しさ」になるだろう。もうこのキャラクターたちとお別れしなければならないのか、もっと彼らの人生を観ていたい、そんなことを思わされる。

しかしリンクレイター作品のうまいところはそこにしっかりと彼らの今後を見せてくれているところ。それは文字通り「見せて」くれるのではなく我々の想像上で「見えて」いると言ったほうが正しいかもしれない。

映画終幕後、あのキャラクターたちの何人が、平凡な仕事に就いて家庭を築くのか?そしてジェイクはあの女の子とうまくいくのか?

将来というものはえてして不安なことが先に頭をよぎることが多い。
しかしリンクレイター作品を観終わったあとにはそれさえもポジティブなエネルギーに変え、将来は何があろうと明るいと、我々に目には見えない、耳には聞こえない方法でふと語りかけてくれる不思議な力がある。


そして「時間」もまたリンクレイター作品のテーマ。
今作では寮へと越してきたジェイクが経験する、セメスターが始まる前の3日間の出来事を描いているが、それも映画的にはまったくといいほど意味のない描写ばかり。
ドラマを盛り上げるために誰かが死んだりだとか、スポ根ばりに友情を深めあったりだとか、ロマンティックな恋に落ちたりだとかはまったくない。

この3日間(すなわちこの映画の上映時間のほとんどで)彼らがしていることは昼過ぎまで寝て、日中は冗談を言い合いながらカードゲームや卓球、ミニバスケなどで時間を潰し、夜はディスコに繰り出しては踊ってホットな女性を口説く。ただそれだけだ。

そんな映画の何が面白いのか。レビューを書いている自分も不思議でしょうがない。

ここでリンクレイターがとったアプローチはこれまで『6才のボクが、大人になるまで。』や『ビフォア・〜』シリーズで描かれたようなキャラクターと一緒に過ごした時間によって彼らへの感情移入を促すという、テレビドラマなんかでよく体験するあれだ。

しかしこの作品は2時間もない。
『6才〜』のように実際に12年間も撮影に費やして役者が成長、または老いていくのを観ているわけでも、『ビフォア・〜』シリーズのように9年おきに続編を作っているわけでもない。

この作品でリンクレイターはこれまでのように経過した時間を描くのではなく、これから彼らに待ち受ける時間(≒将来)について、我々観客の想像の力を借りながら丁寧に描いている。

そんななかで見事にキャラクターに生命を吹き込み、さらには観客に彼らのことをまるで親友かのように思わせることに成功している、その鮮やかな手腕に大きな拍手を送りたい。

この作品はおそらくオススメの映画を教えてと言われてもパッとは出てこないだろうし、年間のベスト10にも(おそらく)入らないでしょう。

しかしこの映画で描かれたキャラクターたちは間違いなく観客の心のなかで生き続け、そして観た人それぞれの想像のなかでそれぞれの人生を送っているでしょう。
そして我々もふとした拍子に彼らのことを思いだし、根拠のない想像を巡らせた5分後にはまた忘却の彼方へと忘れ去る。

まるで今はそこまで連絡を取り合わなくなったけれど、幼少時代によく一緒に遊んだ親友。そんな映画だと、僕は感じました。

トレーラー

IMDb            7.9/10
Rotten Tomatoes        87%
metacritic          83/100

日本公開:2016/11/05

追記:
2016/10/15 - 邦題、日本公開日変更しました。

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