2015/12/30

"The Hateful Eight" 『ヘイトフル・エイト』


監督:クエンティン・タランティーノ
出演:カート・ラッセル、サミュエル・L・ジャクソン、ジェニファー・ジェイソン・リー
撮影:ロバート・リチャードソン
音楽:エンニオ・モリコーネ
187分

相変わらず面白いです、タランティーノの映画は!

激しい吹雪のなか山小屋に閉じ込められた8人の男女。次第に彼らの間に接点が見え始め、緊張感が走る。そして彼らのうちの1人が殺されたことをきっかけに、彼らの関係は大きく変化していく。


まず事実として認めましょう。この映画、とんでもなく長いです!休憩、序曲含め3時間越え。そしてそのほとんどをいつものタランティーノ作品のように会話シーンが占めています。
が、それでもちゃんと飽きずに観られる映画になっていることに、タランティーノの脚本の巧さを認めざるを得ないでしょう。

話の内容は宣伝でも秘密にされているので、深くは突っ込みませんが、簡単にいうと彼らの関係性が徐々に明らかになっていき、殺し合いに発展するのが大まかな流れです。

タランティーノの過去作では『レザボア・ドッグス』が一番近いかもしれません。どちらかというと本作も密室劇に近いですし。
まぁこの部分に関しては特に上手いというふうには思いませんが、本作ではそういう大まかなストーリーよりも、行間を埋める巧さに惚れ惚れしてしまいます

そしてさらに本作も含めタランティーノ作品を一歩上のレベルへと高めている要素が、これらの行間がのちのちに本筋と絡んでくる、という点です。

例えば前半でギャグ的に繰り返されていたモチーフが、思わぬところで作品のキーになっていたりします。これは今年の夏に公開されたポール・フェイグの"Spy" という映画のレビュー(気になる方はこちら)でも少し触れましたが、このテクニックかなり頭が良くないとうまくいかないものです。それをタランティーノはなんとも自然にやってみせてくれます。

そしてライティングがそのテクニックを引き立てるのに一役、いや二役は買っています。
視覚的に物語のキーとなるオブジェクトへのアテンションの引き方がうまいということはもちろんですが、さらに作品の空気感の構築という役目まで担っているのは、さすがという感じ。

さてここからはちょっとテッキーな話。
この作品、撮影中から一部の人の間で話題になっていましたが、なんと全編で使用されているのがウルトラ・パナビジョン70というカメラで、通常の35mmフィルムよりも幅が広く高画質な画を楽しめる代物です。そのためアスペクト・レイシオも通常のシネスコの2.35:1よりもさらに広い驚異の2.76:1

有名どころでは『ベン・ハー』がこの方式を使っていましたが、公開当時にこの方式で観た人はあの圧倒的な横の広さが記憶に残っていることかと思います。
ちなみにこの方式で撮影上映された最後の作品が1966年の『カーツーム』という作品。
それ以来50年近くもこの方式は死んだままでした。

それをタランティーノは今日のデジタル全盛時代に復活させたわけですが、実際に70mmフィルムでの上映を観てみると本当にすごいです。画面の迫力がケタ違いです。この方式のおかげで密室劇にも関わらず、決して狭苦しい感じがせず、たとえ顔のクロースアップでも背景の抜けの迫力がとんでもないわけです。

ちなみにサミュエル・L・ジャクソンがノリノリでこの規格について説明してくれている動画を見つけたので、シェア!↓


そして音楽もあのエンニオ・モリコーネがついにタランティーノ作品にスコアを提供。
ちなみにジョン・カーペンターの『遊星からの物体X』でサウンドトラックに収録されながら本編ではボツになった曲が本作でついにスクリーンデビューを果たしており、ここでもタランティーノのモリコーネ愛が炸裂しております
Overture「序曲」で流れるモリコーネの不穏な音楽が本編が始まる前のドキドキワクワク感をどんどんと昂め、そしてオープニングロールでがっつり我々の心を持っていきます。

この「映画体験」ひさしく体験していなかったので、これを提供してくれたタランティーノにありがとうと言いたい!
ぜひこの人にはまだまだこれからも映画を作っていって欲しいですね。


まぁなんだか何が良かったのか分からないレビューになってしまいましたが、まとめるとぜひ劇場で70mm上映で観るべき映画だ、ということになるでしょう。
おそらく通常の上映で観たら迫力が半減だと思います。少しでも興味のある方は、この上映方式に対応している劇場を探し出して、ぜひそこで観るべきです!

トレーラー

IMDb        8.2/10
Rotten Tomatoes     76%

日本公開:2016/02/27

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