監督:デイヴィッド・ロバート・ミッチェル
出演:マイカ・モンロー、リリー・セーペ、キア・ギルグリスト
撮影:マイク・ジオウラキス
音楽:リッチ・ヴリーランド(as ディザスターピース)
100分
怖すぎ!!そしてなかなか深い!!
恋人と初めて一晩を共にしたジェイは突如"it"「それ」の存在を知らされる。そしてその日から「それ」に追いかけられ始めるジェイ。果たして「それ」の正体は何なのか、そしてジェイは「それ」から逃げることが出来るのか…。
ー以下少々ネタバレありー
今年初めにだいぶ話題になっていた本作。ホラー嫌いな自分としてはまぁ劇場ではもちろんスルーしましたが、この度ようやく観れました。
そして…
何だこれは!!!!!面白い!!!!!
そして想像以上に考えの行き届いた深い映画になっている!!!
ヴィジュアル的にどうしたら怖くなるかが練られているのはもちろんですが、それ以上にこの作品のバックグラウンドにある、退廃的な若者の苦悩とどこか夢見心地な曖昧さがこの映画の怖さ(不気味さ?)を助長させています!
響き渡る不穏なシンセの音色や、大人の助けがないこと(権力の不在)など明らかに80sホラーの作りを踏襲しており、実際に劇中の時代設定がまったくといっていいほどはっきりしていません。これがまたこの作品の異質さを際立たせます。
その証拠に映画のメインキャラクターたちは昨今の若者にも関わらず、誰一人としてスマホをいじらない、というかおそらく持っていないです。
ジェイがグレッグに危険を知らせようとした際にも、手にしたのは馬鹿でかい白い受話器という…笑
さらに映画後半、「それ」を実際に殺そうと主人公たちはプールに電化製品を集めて持ってくるのですが、それも馬鹿でかいアナログテレビやタイプライター(そもそもタイプライターって電気使うの…?笑)など時代錯誤も甚だしい代物ばかりです。
それだったらじゃあもう時代設定は80sでいいじゃんと言いたいところなんですが、実は一つだけ明らかに今日のテクノロジーのアイテムがかなり頻繁に写るんです。それがジェイの友達のヤラが常にいじっている電子書籍のリーダー!
しかしそのデザインはどう考えても現代風のものではなく(とてつもなくダサい貝のデザイン)、このこともまた我々観客を混乱させるのに十分すぎる役割を担っています。
さて、ではこの80sを意識した作風の意図するところも少し考えてみましょう。
このことに直接関係するのが、物語の舞台デトロイトでしょう。
デトロイトといえば自動車産業で栄えたことで有名ですが、70年代、アメリカで日本車が台頭。そのおかげで産業が衰退し、職にあぶれた人々は他の地へ移り、80年代には「貧困の街」 とさえ呼ばれるほど経済状態は悪く、犯罪率も増加していました。
作中においても、主人公グループが車で移動する際に映される空き家の数々、ホームレス、そして街頭に立つ娼婦など、その影響をはっきりと見て取れます。
これがこの作品の一つのキーとなっていて、そう、この映画は若者たちが将来への希望を失い、何かに追われながらも何もできないでいる焦燥感を視覚的恐怖へと昇華したもの、と云えるでしょう。
そのために"it"「それ」の正体が明かされることは最後の最後までありません。
けれども、ではなぜ唯一の媒介の仕方がセックスなのでしょうか…?
正直言って、僕の頭と知識ではこれ以上の分析は無理!笑
それぐらいこの作品には深いテーマと作り手の考察が盛り込まれています。
『エイリアン』がエイズのメタファーであったように、もともとホラー映画は我々の日常にある恐怖への不安を視覚的そして非日常的に表現するのが常でしたが、最近はとりあえず怪物や幽霊をジャンプスケアとともに出せばいいみたいな風潮になっていましたね。
この『イット・フォローズ』はそんな伝統的なホラーの作りを踏襲しながら、昨今のアトラクション的なビビらせ方を極限まで排除して作られた、ホラー映画の新たな傑作だと云えるでしょう。
このような作品が大スタジオではなく、インディ系のフィルムメーカーから生み出されたのは、やはりアメリカにはまだまだそういう才能が眠っているということなのでしょう。
アメリカンホラーの未来はまだまだ明るそうです。
IMDb 6.9/10
Rotten Tomatoes 96%
日本公開:2016/01/08
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