"Pawn Sacrifice" 『完全なるチェックメイト』

監督：エドワード・ズウィック

出演：トビー・マグワイア、ピーター・サースガード、リーヴ・シュレイバー

撮影：ブラッドフォード・ヤング

音楽：ジェームズ・ニュートン・ハワード

114分

丁寧だけど、盛り上がりに欠ける…。

実在したチェスの名プレイヤー、ボビー・フィッシャー。幼い頃からチェスの才能を発揮し、しだいに世界チャンピオン、スパスキーとの試合にむけて情熱を傾けていく。しかし日ごろから奇行の絶えなかったフィッシャーは、周りとの衝突を繰り返していた。果たして彼はスパスキーを下し、世界チャンピオンになることはできるのか…。

エドワード・ズウィックが監督だけあって、とても丁寧に作られています。
しかしどうにも描き方に工夫がないというか、もうちょっとバリエーションがあってもいいかなと思いました。というのもボビーが精神的に病んでいく描写が全編の大部分を占めています。

もともとこの監督、『ラスト・サムライ』や『ブラッド・ダイヤモンド』など、エモーショナルなドラマとアクションを得意とする人でもあるので、僕はかなり好きなのですが今回はフィッシャーが病んでいく描写が大部分なのでこの人が演出するには的を絞りすぎているかなと思います。

というのもこのボビー・フィッシャーという人物、劇中ではかなり神経質な人物として描写されていて、これが天才＝社交性に欠けている、というキャラクター設定につながるわけです。しかしそれを描いた映画は腐るほどあったわけで、だからといってチェスのゲームの描写が面白いかというとそうではありません。むしろボビーの内面にフォーカスしようとしてそこらへんの描写はかなりおざなりです。実際、ゲームをすっ飛ばして結果だけ見せてることもありました。

そこがバランスの悪いところかもしれません。チェスの描写をドラマチックにすればもっと面白くなったでしょう。

今作の脚本を手がけたのがスティーブン・ナイトという人。
去年、トム・ハーディーがハイウェイをひたすら走り続けるだけの映画『オン・ザ・ハイウェイ その夜、86分』で監督デビューしたことも記憶に新しいかと思います。他にも『イースタン・プロミス』の脚本なども手掛けているので、もともとこういう硬派な映画が好きなのでしょうが、もっと話に動的な面白さがあっても良かったかなと思います。

良かったところも少々。役者はかなりいいとこ揃いです。

トビー・マグワイアは久しぶりにいい役が回ってきましたね。神経質なボビーにかなりハマっていました。が、正直いうとトビー・マグワイアがこういう役をやるとちょっと似合いすぎて、逆にダメというか…。
もうちょっとかわいらしい面もある役の方が彼の個性が活かせる気がします。

そしてちょっと嬉しかったのがピーター・サースガードが久しぶりにいい役！
ボビーがブチ切れた時にエアーチェスを瞬時にふる様を見て、ピーター・サースガードの使い方よく分かってるな、と感動しました。
そう、この人は普段は何もせず周りを観察していてことが起きた時に対処の仕方が分かっているという最終兵器的な立ち位置がすごく合うのです。
『ブラック・スキャンダル』の時は本当にひどい扱いでしたが、今回は見せ場も多くて安心しました。

そして一時期の大ブームを終えて戻って来たマイケル・スタールバーグ。
今回はあまり前には出ず、あくまでボビーに振り回されるいちプロモーターを好演していました。
この人はいい助演役者だと思います。主役を引き立てるのがうまい！


まぁ総じていうと中の上ぐらい。
役者陣がかなり僕の好みだったのでそれなりに楽しめましたが、お話的にはもうちょっと面白いかなと思っていたので少し残念です。しかし硬派な映画が好きな人や、役者のアンサンブルを楽しみたい人にはもってこいな作品です。


トレーラー

IMDb　　　　　　　7.4/10
Rotten Tomatoes　　　73%

日本公開：2015/12/25

追記：
2015/10/18 -邦題、日本公開日変更しました。


『ボビー・フィッシャーを探して』
ボビー・フィッシャーにインスパイアされて作られた作品。自分はこちらの方が好きでした。チェスの描写もこちらの方が面白い。

『ブラッド・ダイヤモンド』
本作の監督エドワード・ズウィックが手がけた社会派アクション。あまり知られてませんが傑作です、マジで。


『オン・ザ・ハイウェイ その夜、86分』
本作の脚本家スティーブン・ナイトの監督デビュー作。ほぼ全編車中の出来事で構成されていてトム・ハーディーの演技を存分に堪能できます。