監督:ギャヴィン・フッド
出演:ヘレン・ミレン、アーロン・ポール、アラン・リックマン
撮影:ハリス・ザンバーラウコス
音楽:ポール・ヘプカー、マーク・キリアン
102分
大・大・大・大傑作軍事サスペンススリラー!
ナイロビに潜伏していると云われるアメリカ国籍のテロリストを捕まえるため、イギリス軍とアメリカ軍、そして現地のケニア軍協力のもと捕獲作戦が始まろうとしていた。
作戦の指揮を執るのはイギリス陸軍大佐のキャサリン・パウエル、大臣とともに作戦を見守るフランク・ベンソン中将。そして「空の目」となるドローンを操縦するのはアメリカ軍のスティーブ・ワッツとキャリー・ガーションの2人。
ただの「目」である役割のはずのアメリカ軍であったが、テロリストたちが自爆テロを計画していることを知るなり、作戦の目的は「捕獲」から「殺害」へと切り替わる。
しかし空爆による周囲への被害、そしてイデオロギー、モラルの違いから誰も決断を下せない。そうしているうちにもテロリストたちは着々と準備を進めていく…。
こんなにも緊迫感溢れるサスペンス映画はほんっっっっっとうに久しぶりでした!
何度アームレストを握りしめ、身を乗り出し座席の淵に座っていたことか…!
もう本当にただただ圧倒されました。素晴らしい作品です。
映画鑑賞の楽しさはこういう作品に出会えることだなぁとひさしぶりにしみじみ噛み締められるほどの名作でした。
とまぁそんな抽象的なことばかり書いていても何も伝わらないので(笑)、何が良かったかを出来る限りネタバレなしで紹介!
まず、決して答えが出ることのないこんなにも複雑なテーマ(たち)によくぞ果敢に挑んだ、と製作陣を褒めたい。
この作品は現代の戦争が直面するあらゆる問題、そして疑問を観ている我々に矢継ぎ早に投げかけてきます。
無人機による殺害の責任問題、そして他国籍テロリストが絡んだ場合の外交問題、そして今作品で一番大きなテーマである大多数の命を救うか、1人の命を救うか、という決して答えの出ない問い…。
ただこれがいわゆる難しいテーマだけを観客に投げつけ、モヤっとさせて帰らせる類のお粗末な社会派とはまるで異なります。
この作品はこういった一見避けて通りたいコントラバーシャルな話題を見事にサスペンスとドラマを盛り上げるためのエッセンスとして組み込み、娯楽性を併せ持った社会派として成立させることに成功しているのです!もう、本当にこれにはお手上げ状態でした。あっぱれです。
とりわけ作品の核ともなっている大多数の命を救うか1人の命を救うか、なんて問いはそれぞれ意見はあるでしょうが、どれが正しいかなんて答えが出ることは決してないでしょう。
映画のような客観的なメディアを通してなら大多数の命を救う方がいいに決まってる、なんて思うでしょうが、この映画の賢いところはこの「1人の命」である少女のバックグラウンドがしっかりと出来上がっていることです。
家族との関係や真面目な彼女の性格を描きながら、彼女がその場所にいる理由でさえも彼女に死んでほしくない、と観客に思わせるのに十分すぎるほど。
それでいながら、仮にテロが起きた場合に犠牲となる人の数は計り知れないほどであり、ただ少女を助けられればいい、というような考え方には決してなりません。
こうした正確かつ鋭いバランス感覚が見事にこの議論を成立させるのに一役買っています。そもそもこの作品、全編を通して本当にバランス感覚に優れています。
そしてこの作品のもう一つの素晴らしさがアクションのセットアップの巧さ。
登場人物たちは常に選択を迫られているのですが、ベストな選択肢だったものが、その5分後にはベターな選択肢へと変わっていきます。そしてさらに5分経つとワースな選択肢に…、とこんな感じ。
この時間によって選択の価値が変わっていく様をうまく描写しているので、見ている我々はもうハラハラドキドキが止まらないわけですね。
そして「さぁいざやるぞ!」って時になって「いや今はまずいよ…。」という事態が起きます。(稚拙な表現ですみません…あまりネタバレしたくないので…。)
しかし、それらがしっかりとビリーバブルに描けており、かつそのタイミングも上手いものだから、 作品のトーンがいい意味で常に一定であることがなく、もう終始緊張しっぱなしな訳なんです。
とりわけラストのクロスカッティングのシーンはもう、体がむず痒くなるくらい完璧なカット配分で惚れ惚れしてしまいました。これは編集を担当したミーガン・ギルの素晴らしい技量の賜物だと思います。おそらく2016年で一番忘れられないシーンの一つになるでしょう。
そしてこの映画のもう一ついい部分が、テロリストを完全悪として扱っているところ。
変にワイダニットを掘り下げず(もっというとそれを推測させるような情報さえ我々には与えられない。これは少女のパターンと見事に逆で、何を我々に見せるべきで何を見せるべきでないかを心得た素晴らしい脚本のおかげ。)、白と黒の構図をはっきりと浮かび上がらせたうえでグレーゾーンでの駆け引きにポイントを置いています。
実は僕にとって戦争映画はビジュアルの部分で強烈だということもあって、テーマはシンプルなのに見えづらい(伝わりづらい)ものなのですが、この作品はもう言いたいこと伝えたいことをどストレートに観客に伝えています。そしてそれが見事に頭にこびりついて離れなくなりました。
こんなにも深く感銘を受けた社会派映画は…いつぶりだろう…『ホテル・ルワンダ』とか『ブラッド・ダイヤモンド』以来かもしれない。
いま自分で書いてて思いましたが、この作品の気持ちのいいモヤモヤ感は『ブラッド・ダイヤモンド』を観たあとのそれと似ているかもしれない!
ちなみにあまりレビューと関係ないんですが、トレーラーにも出てくるハチドリやカブトムシの形をした偵察機の存在がちょっと気になったので調べてみました。するとまぁびっくり。本当にあったんです!
ハチドリ型偵察機↓
ただカブトムシ型はさすがにまだ開発段階のよう。
監督のギャヴィン・フッドはなぜ実戦で使えないかを開発元に聞いたそうですが、その理由は簡単でどうやらバッテリーが使い物になるものが今の技術ではないらしいのです。それを聞いた監督は映画に実際にその要素を取り入れたそうで、またこれが映画を盛り上げるのに一役いや二役は買っていました。
僕がここで言いたいことは、こんなに真摯な映画作りがありますか?ってことです。
さてまとめると、監督の映画作りに対する誠実な姿勢と、扱っている至極複雑なテーマへのアプローチ。これらが見事にうまく融合し、これまでにない傑作サスペンススリラーが誕生しました。
間違いなく2016年必見の1本でしょう!
トレーラー
IMDb 7.2/10
Rotten Tomatoes 93%
metacritic 72/100
日本公開:2016/12/23
追記:
2016/10/15 - 邦題、日本公開日変更しました。
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