2015/11/01

"Steve Jobs" 『スティーブ・ジョブズ』

監督:ダニー・ボイル
出演:マイケル・ファスベンダー、ケイト・ウィンスレット、セス・ローゲン
撮影:アルヴィン・クーフラー
音楽:ダニエル・ペンバートン
122分

とても面白いアプローチをしている作品です。

今やその名を知らない人のない天才、スティーブ・ジョブズ。 彼が行なった3つの製品発表の舞台裏から彼の人となりを暴き出していく。


まず初めにこれまでスティーブ・ジョブズをフィーチャーした映画は2つ製作されてます。
1つ目はアシュトン・カッチャー主演(最近クッチャーって呼ばれるけど、どっちなんでしょう?)の『スティーブ・ジョブズ』(原題:"Jobs")とドキュメンタリーの"Steve Jobs: The Man in the Machine"。

後者は未見なので比較できませんが、前者のほうはスティーブ・ジョブズがなぜAppleを作ったか、なぜデザインにそこまでこだわるのか、そしてなぜ友人たちを裏切る(そして裏切られる)ことになったのか、などが描かれかなりドラマチックな趣でした。

さてもうすでに2本の映画が作られ、そのうちの1本はドキュメンタリー。これ以上、何をどう追求していくのか…?
観る前は二番煎じになりやしないかと不安でした。

しかし蓋を開けてみると、まぁこれがそんな単純な比較論など通用しない不思議な映画でした。


なにがそんなに不思議かというとこの映画、あらすじにも書きましたが3幕構成なのです。
Appleコンピューター発足の会見、ジョブズがAppleを追われ新会社NeXTを設立し、「NeXT Cube」の製品発表をした際の会見、そして最後にジョブズがAppleに戻りiMacを発表した際の会見。

これらの会見前の40分間をそれぞれ描いていますが、この間にジョブズに関わった人物を絡ませ、彼の人生の尺図とでも良いましょうか、彼が歩んできた人生、そして彼自身のこの間の些細だけど大きな変化を見事に描き出しています。

つまりは彼のインスピレーションの源や、何が彼をそこまで突き動かしたかなどにはまったく踏み込みません。というか踏み込みようがありません。
この作品はただの偉人のバイオグラフィーではないのです。


そしてこの映画のもう一つの面白いアプローチが劇中の時代設定によって使用しているカメラを変えているところ。

1幕目は16mmフィルムカメラを使用して粒子の粗い80年代前半の雰囲気を醸し出し、2幕目では35mmといういわゆる16mmよりも撮像素子の大きい、一昔前の映画でスタンダードに使われていたフォーマットを用いて、90年代に入ろうとする80年代後半の空気を切り取り、そして3幕目ではRED EPIC DRAGONといういわゆる現在の主流であるデジタルカメラを使用して我々が今テレビや映画館などで観ているものと同じ質感を表現しています(いうても3幕目は今から17年前とバリバリフィルムの時代なんですが笑)。

これによって作品の切れ目がビジュアル的にも明らかになります。

この映画、構成といい、その台詞の量といいどちらかというと舞台(演劇)で真価を発揮するものな気がします。
それぐらい映像の面白さや映画的な見せ場、よりも俳優陣の演技や細かい心理描写に気を配っています。
ただ映画的にダメというわけではなく、この2つの微妙なニュアンスを汲み取ってうまく昇華したのが、監督のダニー・ボイルですね。この人選は全スタッフ・キャストのなかでもベストのチョイスです。
というのももともと彼のキャリアは舞台から始まっているので、両方のノウハウを詰め込んでこれまでとはまったく異なったタイプの映画を作り上げました。


確かにドラマチックな親子のドラマや、Appleのサクセスストーリーのようなエンタメを期待していくと拍子抜けかもしれません。しかし、この映画にはそれ以上の圧倒的なパワーがあります。
構成はちょっと変化球ですが、それを覚悟で行けば上質な舞台劇、そして俳優陣の熱演を存分に堪能できる佳作です。

トレーラー

IMDb             7.3/10
Rotten Tomatoes         85%

日本公開:2016/02/16

追記:
2016/01/28-邦題、日本公開日変更しました。

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