2015/12/04

"Spotlight" 『スポットライト 世紀のスクープ』 

監督:トム・マッカーシー
出演:マーク・ラファロ、マイケル・キートン、レイチェル・マクアダムス
撮影:マサノブ・タカヤナギ
音楽:ハワード・ショア
128分

うむ、悪くないね。

ボストン・グローブ紙のスポットライト欄を担当する5人の記者・編集者。彼らは地元のカトリック教会が長年の間隠してきた聖職者による児童への性的虐待の真実を暴くために奔走する…!


評判通り素晴らしい作品でした。
ただ、いわゆるエンテーテインメントを求めていくとちょっと面食らうかもしれません。

基本的にこの映画は記者たちが地道に辛抱強く一歩一歩真実に近づいていく様を、彼らが歩んだそれとほぼ同じようなスピードで見せていきます。

この語り方を巧みに組み込んだ映画がちょっと前にあったのを覚えていらっしゃる方もいるかもしれません。そう、デヴィッド・フィンチャー監督の『ゾディアック』です。

しかし本作は『ゾディアック』ほどダークでもヴィジュアライズされた語り口があるわけでもありません。

そんなのただの平凡なノンフィクション取材映画じゃないか、とお思いかもしれませんが、ところがどっこい。
この0から世界全体を巻き込んだ宗教史上稀に見る一大事件へと発展していくさまはとんでもなく面白く、そしてがっしりと我々観客の心を掴むのに成功しています。

それに一役買っているのが監督トム・マッカーシーとジョシュ・シンガーが共同で書いた脚本。
とてつもなくディテールに凝りながら、僕のようなキリスト教にもこの映画の題材となった事件にも疎い人間にもとても分かりやすく、セットアップが緻密に展開され、そして同時にキャラクターデヴェロプメントも抜かりがない、という隅々まで気が配られ手が行き届いた脚本になっています。
今年観た映画の中でも指折り数えるほどの出来。

そしてもう一つの要因が素晴らしい俳優陣です。
キャストを見てもらうと分かりますが、もうとんでもなく豪華キャストのアンサンブルです。
しかし彼らの真にすごいところは彼らが完璧にこの映画の一部になっていたことです。決して誰かが突出することはなく、お互いを補完し合っているのが分かります。
だってよく見てください。とんでもない個性派ばかりですよ?笑
 
マイケル・キートンは去年『バードマン』で劇的に復活を果たし、あのイメージが未だに自分の中でも残っていますが、不思議なことに映画を観てる最中に『バードマン』のキャラクターが脳裏をよぎることが一秒もありませんでした。

ジョン・スラッタリーも『MADMEN』のイメージが強すぎるわりに本作では見事に溶け込んでいます。これもひとえに周りの役者のバランスゆえだろうか…。

他にもレイチェル・マクアダムスやマーク・ラファロ、リーヴ・シュレイバー、そしてスタンリー・トゥッチなど。それぞれのキャリアのうちでもかなりハイレベルなパフォーマンスを見せています。

撮影はハリウッドの第一線で活躍する日本人DPのマサノブ・タカヤナギ。『THE GREY』や『世界にひとつのプレイブック』の時のような美しい照明などは封印し、あくまで抑えに抑えた映像で我々にカメラの存在を意識させない画作りになっています。

そして音楽のハワード・ショアもシンプルなピアノの旋律ながら耳に残るサウンドトラックを提供し、色で例えるならグレーなこの作品のトーンをより深めることに貢献しています。

映画的見どころは何かと聞かれるとはっきり言って答えに困ってしまうのですが、「とても良くできた作品」というのがぴったりハマる映画だと思います。
ぼんやりとした感想ですみません。笑

本年度のオスカー候補に名乗りを上げた第1号ですが、その肩書きにふさわしい佳作です。

トレーラー

IMDb            8.6/10
Rotten Tomatoes        98%

日本公開:2016/04/15

追記:2016/01/28 - 邦題、日本公開日変更しました。

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